スティーヴ・マックイーン監督の「それでも夜は明ける」。
19世紀のアメリカで、「自由黒人」の身分でバイオリニストとして活躍していたソロモンが拉致され、南部の農園に奴隷として売り飛ばされ、白人に「家畜」以下に虐待を受け、辛うじて12年後に北部に生還できたという、ノンフィクションを基にした映画である。
わずか150年ほど前のアメリカにおける白人の犯罪的搾取を見事に描いている。
私がいちばん衝撃を受けたのは、ソロモン(奴隷名プラット)が白人の逆恨みを受け、絞首されそうになっているときに、奴隷黒人も含めて、誰もそれに気づこうとしないで、それぞれの仕事・役割を続けているシーンである。
考えてみれば、現代社会も搾取・収奪されている人たちを見て見ぬふりして、自分の小市民的生活に安住しようとしている傾向は強まっているのではないか。この映画の主人公さえ、北部にいる従前の主人である白人に連絡を取り、自分だけが助かったというのであり、性的収奪を受けている女性奴隷パッツィーは助けられなかったのである。
スティーブ・マックイーンといえば、私の世代では、同姓同名の白人活劇俳優を思い起こすが、この映画の監督は黒人である。
暗く重い映画ではあるが、このような映画がアカデミー賞を取ったということに拍手をしたい。