小林政弘監督、仲代達矢・北村一輝主演の映画「日本の悲劇」。
昨年名古屋で上映していた時に、観る機会を失して、今日行ってきました。刈谷の「刈谷日劇」。
名鉄三河線の「刈谷市駅」駅前のパチンコ屋の5階。スクリーンが2つあって1つはロードショー、2つめが名画座という配置。
もちろん、「日本の悲劇」は名画座扱い。2本立てで800円は安い(もう1本の台湾映画は、観ずに帰ったけれど)。
アサイチの上映の観客は私一人かと思っていたら、老夫婦2人が後から入ってきた。それでも、映画館の収入ではとても黒字にはできないだろう。パチンコ屋の収入でなんとか維持しているのだろうか。施設は新しく(1昨年に改装??)、駅前で無料駐車場完備というのも名古屋ではありえないし、ホント、貴重な映画館だ。
で、この映画。年金詐取をモチーフにしたものと言うが、声高に不正を指摘する映画ではない。
ストーリーは、肺がんに侵され、余命わずかな父親(仲代)が、自室の扉を内から釘打ちして閉じこもる。息子(北村)は、リストラで妻子と別れ離れになり、さらに妻子は大津波で行方も知れない。母親は突然死し、自分はうつ病で仕事もできず、父親の年金でかろうじて生きている。父親は自分の死をかけて息子の自立を促しているのか。息子は、社会へ再起できるのか。
息子が、会社で働いていた時、妻(寺島しのぶ)が、家庭より会社を大事にしているというが、そうじゃない、家族のために働いていたのだ、会社人間に徹していたらリストラなんかされない、と言う。失業して無職になった自分がみじめすぎて、子どもにも合わせる顔がないという。こういう思いの男…ホームレスのひとなんかはたくさんいるんだろうな。
息子夫婦に赤ちゃんができて、老夫婦宅に帰省した幸せの絶頂の時だけがカラー画面で、それ以外はすべてモノクロ。音楽は一切なし。画面には見えていない人の声や物音を効果音としている。「音」を大切にしている映画だが、この「刈谷日劇」は名鉄駅の隣にあり、電車が行き来するたびに、その音が聞えてくるのが、邪魔である。ほとんど仲代と北村の二人芝居といってよく、すべての場面がある一軒家の中のことだが、カメラの位置で「時間」をわかるようにするなど、実験的な試みがなされている。
決して楽しい映画ではないけれど、観る価値はあり、刈谷まで行った甲斐はある。